「カツオ!宿題やったの!?」
日曜午後6時40分。例の国民的アニメをみながら明日の仕事のことを考えていた。
サザエさんは変わらない。30年経ってもカツオは宿題をやらないし、ワカメちゃんのパンツはみえてるし、タラちゃんの独特の語尾は今なお健在だ。
俺は変わってしまった。いや、変わらざるを得なかった。
腕に薄っすらと残る根性焼きに目をやる。あの頃はなにも怖くなかった。俺を縛るものはなにもなかった。なにもしなくてもいいし、なにをしてもいい。一切の義務を持たず、無限の権利を手にしていた。執行猶予期間とはよくいったものだ。
「ただいまー!花粉やばーい!てか聞いてよ!電車並んでたらババアに割り込まれてさ〜」
ほら、感傷に耽ることすら許されない。女という生き物はなぜこんなにもよく喋るのだろうか。
「はい、お土産」
ひとしきり喋り倒した後、そう言って嫁は満面の笑みで紙袋を寄こしてきた。
「なにそれ?」
「世界で二番目に美味しいメロンパン!」
なんだそれ、一番でいいだろ。いったい誰に忖度しているのか。ジャムおじさんか。
「今コーヒー淹れるから」
夕食前にメロンパンはいらないのでは?と制する間もなくテーブルの上にはメロンパンとコーヒーが並んだ。
やれやれ、世界二位のメロンパンとはどんなものか。溜息を吐き出しメロンパンを齧る。
甘い…
中和を試みてコーヒーを啜る。
苦い…
隣を見ると、嫁がなんとも幸せそうな顔でメロンパンを頬張っていた。よくもまあたかだか数百円の菓子でそんな顔ができるものだ。
「お前ってコーヒーとメロンパンみたいだな」
思わず口をついて出た言葉だった。
「は?なにそれ?」
俺にもわからない。
わかっているのは、嫌いじゃないってことだ。
適当な単語を使ってSSを書く遊びであって俺は正常です