倒立とロシア人

毎日、放課後は体育館で倒立の練習をしていた。

体操部員である俺にとって、倒立ができないというのは致命的だった。倒立ができない限り、どんな技の練習もさせてもらえないのだ。

だけど、何度やっても綺麗に静止できない。面白くもない。バク転とかバク宙などのかっこいい技の練習がしたい。ただの苦行だった。

俺には体操の才能がない。テレビでみる体操選手のような美しい動きは、俺には一生できないのだろう。

そんな風に半ば諦めながらも義務的に倒立していたある日、見知らぬ外国人が体育館に現れた。

その風貌は、ガンバフライハイのアンドレアノフコーチにそっくりであった。

彼は「so bad…」などと言いながら俺の倒立の姿勢を正し限界まで倒立させた。

俺が力尽きて崩れ落ちると、彼はカタコトの日本語でこう言った。

「毎日1分の倒立を200回繰り返しなさい。私が補助してあげよう。」

その日から、俺は名も知らぬアンドレアノフっぽい何者かに指示されるままにひたすら倒立し続ける日々を送った。

何日経ったか、何度倒立を繰り返したのかは定かではない。ある日、俺の倒立は突然完成した。手のひらからつま先まで一直線に、なにかに吊るされているような、自身ではっきりわかる「完璧な倒立」だった。俺は理を手にしていた。

アンドレアノフっぽい何者かは少し驚いたような顔をしながら

「very good!」

そう言って俺を称賛した。

俺は彼に感謝を述べ、あなたは一体何者なのか。さぞかし名のある体操選手なのだろう。ここまで指導してくれたあなたの技をみてみたいと申し出た。

彼は少し考えこむような仕草をした後、倒立をした。いや、正確には不格好に逆立ちをしてそのまま倒れたのだった。

呆気に取られる俺を尻目に彼は笑いながら言い放った。

「私は体操なんてやったこともない。君が勝手に私のことを体操選手だと思い込んでいただけだ。だが、騙されてよかっただろう?」

しばし呆然とした後、俺も笑った。

そうして名も知らぬアンドレアノフっぽい何者かは去っていった。二度と会うことはなかった。






という夢をみたんですけど、わりと真理だと思うんですよね。ただただ反復練習に付き添い、励ましてくれるだけの人がいるだけで、人は成長できるってのは

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